鞆の浦のアトリエ

3階リビングからの眺め

完成しきらない建築

アーティストである依頼主からは、一定のヴォリュームのある外的影響を受けないアトリエスペースと、小さくても見晴らしのよい居住スペースが求められた。敷地は東に海を望み、西には山が連なる高台にある。

計画は、四角いコンクリートの箱に二辺を残して鉄骨の箱が載るという構成である。

アトリエは二辺をトップライトとし、制作に必要な壁面長を確保している。トップライトはポリスチレンフォームで断熱し、軒天ガラリで換気をとり結露対策とした。

住宅部分東側は、海に向けての全面開口としている。張り出した窓台は窓拭き足場となると共に、近景をカットし、トリミングされた景色を獲得している。窓台は室内ではベンチとなり、下部にはダクト用防虫網を使用した通風開口を設けている。西側は、陳列レールを用いた細長い窓から山と空を望むことができる。

竣工が近づくにつれ「完成しきらない状態での引き渡し」という要望が何度か語られた。建築作品ではなくて、快適な制作と生活の場、環境を提供してほしいという意味であったと解釈している。

建築の設計は、依頼主の要求や敷地の条件を前提に空間をつくっていくわけだが、条件の整理分析の占める割合と個人の想像力が占める割合は、人によりさまざまである。条件の把握にも個人差があるであろうが、客観的事実を積み上げていくことを続ければほとんど必然的に建築が生まれるのではないかという期待をもっている。 依頼主がアーティストだから作品性の強い建築が敬遠されたというだけではなく、建築は本来、その場にふさわしい環境をつくることだと、今回改めて考えさせられた。

住宅特集2007年7月号掲載より

2007.02.
広島県福山市
RC造+S造 地上3階建て 197㎡

[ ] TECTURE MAGに掲載していただきました

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