対厳山の家

前面道路より、西側角を見る。道路側の開口は最小限にしている

デザインしない住宅

対厳山は、厳島の対岸で、厳島神社を臨む位置にある。計画地は、間口が広く、細長い敷地で、建物の2階レベルからは、隣家が視界を遮っている所もあるが、神社の鳥居、島の険しい山並みや瀬戸内海を望むことができる。

この家に住まれるのは、御夫婦と成人された子供2人の大人4人である。

依頼主家族との打合せは、各人の家に対するイメージをめぐり楽しく進んでいった。御主人は、広告関係のデザインなどもされてきた方で、コンセプトが明瞭でありながらもデザイナーの手の跡が見えないものを求められていたように思う。奥様は、自然の素材でつくられる風合いを大切にされる方である。息子さんは、西部開拓時代のような素朴な家のあり方に共感をもたれていた。娘さんは、個室の独立性を大切にされていたように思う。何回か、お話をするうちに、この家は、「The Barn」(納屋)でいこうということになった。

依頼主家族の要望の平均や延長が、納屋に落ち着いたということでもあるのだが、打合せを通して、20年程前から「納屋」に惹かれていた自分を再発見したということでもある。納屋や倉庫に入ると、楽しい家になりそうだとわくわくした気分になる。つくりあげられた家に比べて、それらの単純な構造の建築は、自由で、力強い生活の可能性を感じるのである。納屋を改装して住宅にしていくようなイメージで、計画は進められていった。

配置は、遠景の景色を楽しむことと、庭を楽しむことができるよう、細長い敷地を更に細長く2分割し建築と庭にした。庭には、離れに和室を設けて隣家の存在を消すとともに庭の活用の巾を拡げた。LDKは、2階に設けパノラマの景色を楽しむことができる。

建物は、とにかく経済的、構造的合理性にもとづいて設計した。規則正しく柱と梁を並べ、わずかに手を加えることによって住宅になり得るように考えた。生活をなぞって住宅をつくるのではなく、空間の構成をなぞって生活するという考え方である。

「The Barn」をイメージして、空間構成と生活の関係を考えていくと、生活は相対的だけれども空間は絶対的だという思いが強くしてきた。「The Barn」の論理の延長上に何か力強い空間を見つけていきたいと思っている。

1999.04.
広島県廿日市市
木造 地上2階建て 182㎡

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