美鈴が丘の家

小さくても愛着の持てる家

美鈴が丘は広島市内から西へ約7km、今も拡大を続けるニュータウンである。俗に「売り建て」といわれる住宅供給システムによって、ほとんどすべての家が2社のメーカーに依っている。この敷地は開発時期が早く、建築条件がなかったわけである。面積約52坪、ほとんどフラットのごくごくありふれた郊外住宅地である。施主4人家族の希望諸室も、予算も、約36坪という延床面積も、ごく一般的である。ただ、奥さんの家に対する考え方は明確であった。いわく、小さくても愛着の持てる家、だんだん味わいの出てくる家、外から目立たない家、飽きのこない家、静かで落着きを感じさせる家などなど、ごく当たり前のことだけれども、たしかに今では一般的でなくなってきているように思われた。わが事務所の隣にある、古く、薄汚れた掻落しの塀のような材質感が好きとの話から、プランと立面が一気に出来上がった。

プランは小さい床面積にたくさんの部屋あるので、窮屈さを感じさせないことを第一とした。1階では玄関、廊下、階段、キッチンなどを連続させて拡がりを持たせた。また、階段下を食卓にしたことでかなりのスペースが有効になっている。外部では小さな坪庭を設けて、玄関、居間、和室に開放感を与えている。2階も多くの部屋があるので、各室の欄間部分を透明ガラスとして、天井を連続させることによって拡がりを持たせている。

1階和室床の間の行灯は、サッシュ開閉部を隠すためのものでもあり、デザインと製作は草月流の高橋篁赫氏である。たまねぎの薄皮を使った行灯で、ウイットに富んでおり、施主も私も大変気に入っている。

年を経るにつれて、味わいが出るようにと選んだ外壁は、年を経るどころか、天気や時間によっても日々色が変わり、いまだに色が定まっていない。建物の周囲に植えた樹々も季節による変化が大きいものばかりなので、角地にあるこの建物が、これからも街並みにさまざまな表情を提供してくれればと思う。

住宅特集 1991年12月号掲載より

1990.09.
広島県広島市
木造 地上2階建て 117㎡

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