上関のセカンドハウス

上関のセカンドハウス 南側外観全景

山と海をつなぐ、積み重ねた立方体

上関は、山口県柳井市から車で約30分、上関大橋によって陸続きとなった瀬戸内の島である。橋を渡り、陸地を見返す沿岸沿いの集落の中に、敷地はある。北は空地を挟んで海を望み、南は水田を挟んで山を望む好立地であるが、周囲は民家が建ち並び、敷地も別荘地と考えると広くはない。

広島市の中心街で飲食店を経営されている依頼主は、休暇を過ごす場として、人里離れた別荘地ではなく、親戚、知人も多い馴染みのあるこの地を選ばれた。自然との交流に加えて、地域との交流の場としての休暇住宅である。

設計で意図したことは、生活をする中で、海や山の自然が、十分に体験できる空間とすること、利用人数や利用目的に合わせて、フレキシブルに対応できる空間とすること、そして、これらふたつの目的をどれだけ単純な空間構成によって達成できるかであった。

建物は、ふたつの細長い立方体を、縦横、直角に重ね合わせてつくられている。1階は東西を軸に、2階は南北を軸に居室スペースを配し、重ね合わさった部分に、垂直の軸として螺旋階段を設けている。

2階のスペースは平面的にも断面的にも、海を望む方向に広がりをもたせ、その空間を、鉄骨ブレースによって大きく張り出させ、海と山を結ぶ軸線を強調している。海に向けられた望遠鏡の内部のような空間からは、刻々と変わる海の色や、四季を通じて変化を告げる山の様子が、切り取られた絵のように鑑賞される。

1階のスペース、2階のスペースは共にオープンなワンルームであるが、螺旋階段によって、それぞれ大小の空間に分節化されており、利用人数の多寡に対応できる仕組みとしている。東西を軸に配された1階は南北方向には完全に開放されており、どこからも、出入り自由な屋外的な場所としての利用を可能にしている。

また、2階張り出し部分の下は駐車スペースや、道に面した夕涼みの場として、1階張り出し部分の上は、日没の海を眺めるサンデッキとして計画し、狭い敷地に積み重ねられた箱の余白部分を生かしている。

単純な空間であるが、海や山の自然を満喫でき、さまざまな利用ができることテーマとした休暇住宅の設計であったが、ひとりで行っても、たくさんの人に来てもらっても退屈せず、息苦しくなく過ごせるという依頼主からの言葉を聞いて、設計の意図もやや達成されたかと思っている。

住宅特集1994年2月号掲載より

1993.08.
山口県熊毛郡
S造 地上2階建て 81㎡

先頭に戻る