伏原の家

前面道路側外観全景

4つの箱によって、全体が意識される空間構成

広島県呉市は山に囲まれたすり鉢状の地形で、敷地はその中腹の住宅地にある。東西に長い敷地は、東側が道路に面し、西側には小川が流れている。街並みの裏側となっているため景観上はドブ川に近い状態だが、流れる水は意外に澄んでいる。小川沿いの家々が小川を意識した家づくりをすると、ずいぶん、個性的な住環境ができる場所である。小川沿いの既存の3本のモミジに、数本のモミジを加え、「モミジ谷の街」のスタートにしようと思ったのが、計画の始まりである。

4人家族の依頼主が、最初に描かれていた間取りは、中央の居間に向かって中2階に個室群が並び、間仕切りを開けると1ルームになるという構成であった。住宅の内部はできるだけ開放的でありたいと、常々思っていたので、上下階を逆転した形で要望に応えた。10m角の1階には、主寝室・子供室・和室・水回りの4つの箱を四隅に設け、その上を、それぞれ、居間・DK・AVルーム・ユーティリティのスペースとして、いろいろなレベルでのプライバシーを保ちながら、どこにいても全体が意識される空間となるよう計画している。

構造は、2階腰まで外周壁を鉄筋コンクリート造、それより上の外壁と屋根を鉄骨造として、10m×10m、2階分の高さの空間をまず確保している。その中に木造の4つの箱を設けるという構成によって、家族―個人のヒエラルキーを、構造に置き換えて表現している。

住宅棟とは縁を切って、車庫と玄関があり、こちらは全体が鉄筋コンクリート造で鉄骨のスロープによって住宅棟とつながっている。

緑の中に浮いたスロープを通って、4つの白い箱に囲まれ、上方から光の落ちるホールに出る。螺旋階段と直階段で2階と繋がっており、家の中を回ると、単純な構成にもかかわらず、さまざまな景観が展開する。

外部も、エントランスコート、坪庭、モミジの庭、車庫の上の斜面芝の庭など、いろいろな景観の庭が建物を取り囲んでいる。

できるだけ単純な構成で、できるだけ豊かな生活、自然、空間が体験できるようにと考えて設計した住まいである。四季を通じてどのような体験が展開されるか、これからも見守っていきたい。

住宅特集1992年10月号掲載より

1992.03.
広島県呉市
RC造+S造 地上2階建て 246㎡

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