江波の家

外観(夜景)

大きな箱の中の3つの箱がつくる隙間と光

江波は広島市の南に位置し、海に近い下町である。前面道路は3.9m、敷地は間口3.9m、奥行き24mで、近隣の人からは露地と呼ばれていた土地である。クライアントは下町らしい雰囲気と近くに海と小さな山があることを好まれて、この地を選ばれた。創作の場をもつ住居としてローコストでもコンセプトの明快な空間を求められて、計画はスタートした。

計画は断面計画と、施工方法を中心に進められた。3層で奥行きの深い空間をどのようにして連続性のある居住空間とするか、間口の狭い敷地に対し、いかにして有効な内部空間を確保するかがテーマである。

断面は、奥行きの深い箱の中に3つの箱を浮かせる構成である。1階は道の延長として裏庭まで続くアトリエである。2階の3つの箱は水回り部分と個室である。個室はアクリルとカーテンで仕切られ、4つの吹抜けを介して外部空間と1・3階の内部空間に連続する。

3つの箱の上は、それぞれL・D・Kのスペースとして利用される。3階の高さからは眺望が確保されるので四方に開放された構成である。海と山が望まれ、1階のアトリエまで光を落としている。

間口いっぱいの建設計画は施工者との共同計画である。鉄骨の建て方の後、足場を組んで外壁の外部側の仕舞いを終える。その後足場を解き、パレットジャッキで外壁を敷地境界線側に移動させ、躯体と連結させる。柱と外壁の間隔がその経緯を物語っている。結果として、奥行きの深い3層分の大きな壁が認識され、この建築の内部空間の大きな特徴となっている。

外部空間と内部空間をどう関係づけるか、内部の空間相互をどうか関係させるかを考え、それをできるだけ単純な構成で実現することを考えた結果が、大きな箱の中の3つの箱であった。このことによって、さまざまな方向に抜ける大小の隙間と、そこに落ちる光が、内部空間をさまざまに変化させ、創作の場にふさわしい住空間となったのではないかと思っている。

住宅特集1998年7月号掲載より

1998.07.
広島県広島市
S造 地上3階建て 149㎡

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