毘沙門台の家

単純な空間構成の環境受信装置

敷地は、広島市街を一望する高台の団地にある。中でももっとも眺望のきく敷地を依頼主は求められた。

住まいへの要求は、サンルーム的な明るい居間、入浴後のくつろぐスペース、独立した茶室、バーベキューのできるテラスなどを設けること。目の不自由なお母さんの部屋回りの動線を、現状と変えないようにすること。家族間でお互いに気配を感じられるようにすること等であった。

廊下・階段などの移動のための空間を有効に活かすことによって、7人という多人数の家族の生活と、これらの諸要求を両立させる計画とした。住戸内に走る、横1本縦2本の動線部分を、屋根、壁共ガラスに囲われた屋外的な吹抜け空間とし、この空間が緩衝空間となって、個人のプライバシーと家族間の気配、サンルーム的な明るい生活空間などが実現している。

各個室には折戸による広い窓が設けられ、このスペースに向けて開放することによって、狭い室内に開放感を与えている。この空間には、朝、夕、晴、雨、さまざまな自然の変化が入り込み、住戸内を移動すると、さまざまな景観が展開し、住まい全体が環境の受信装置となっている。

この住まいの中で唯一閉鎖的な空間となっている茶室は、低い位置から光を取り入れ、静かで落ち着いた空間である。床の間は、輸入原石の加工段階で捨てられる背板の部分でつくった石の床板、ステンレスワイヤーの床柱、ピクチャーハンガーの花掛けなどを使い、床の間のエレメントを再構成してつくった空間である。

単純な空間構成、単純な形態でありながら、四季や、朝夕の自然の変化を、生活の中で体感できる空間づくりは、依頼主の経営する本社ビルの計画以来、依頼主と私とが、共に追求してきたテーマである。

住宅特集1993年10月号掲載より

1993.07.
広島県広島市
木造 地上2階建て 170㎡

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