小さな知恵を積み重ねたスモールオフィス
広島市は7つの河の流れる街である。敷地はそのひとつに面し、前面を全国でも珍しくなった路面電車が走っている。施主はこの「河に面する敷地」を購入された。
施主の要望は次のごとくであった。
1.春夏秋冬、朝昼夕、折々に変わる光や自然が、感覚を刺激し続ける空間であること。
2.ローコストや敷地の悪条件を逆手にとった知恵の建物であること。
3.若い社員が共感できる明るいワーク環境であること。
間口4.5m、奥行き25mの敷地である。階段室を挟んでティールームやミーティングスペースを河側に設けることで要望のいくつかが解決された。ティールームや各階のミィーティングスペースからは、刻々と変化する河や街の風景が展開される。階段の上り下りには山の緑の景色が入り込む。最上階のスカイライトの下のホールでは、その日の天候と共に1日が始まり、終わる。市街地にあっても、まだまだ多くの自然が享受され得ることが実感された。
ティールーム、ミィーティングスペースは、テーブルもガラス、花瓶やカップ類もガラスとして、透明感を高め、ワークスペースと通りのつながりを強めている。軽く宙に浮く階段も、透明感を強くしたという考えによるデザインである。このスペースは、各階に分断されたワークスペースに視覚的な一体感をもたせる空間としても機能している。外部に向けては、3階と5階のバルコニーに小さなグリーンを配している。トケイソウとハツユキカズラは、すでに2mも枝を伸ばしている。来年にはわれわれの意図通り、電車を待つ人びとの目に留まるかもしれない。
大きな夢に向けて小さな知恵を積み重ね、5階建てなのに、エレベータもない間口4.5mのスモールオフィスが完成した。施主はこのビルを「あす晴れビル」と名付けられた。
新建築 1992年12月号より
1992.06.
広島県広島市
RC造 地上5階建て 456㎡